トリアージ・セオリー — 長寿のビタミンとミネラルを最適化して健康的にゆっくり老化

Fact Checked(事実確認)
ビタミン

早分かり -

  • 病気予防のために必要なビタミンやミネラルの量は長寿のために必要な量とは異なり、多くの場合、ビタミンの推奨日量は長寿のためには不足です
  • ブルース・エイムズの「トリアージ・セオリー」は、細胞にビタミンが不足すると、がんや心臓病等の長期的病気の予防に必要なものよりも、目先の生存と生殖のために必須のタンパク質酵素を優先するかたちで配分し始める、というものです
  • 長寿のため特に重要なその他の栄養素には、主にキノコが生産するアミノ酸、エルゴチオネインをはじめ、NAC、NAD、カロチノイド、コリン、アセチルLカルニチン、アルファリポ酸、タウリンがあります
  • オメガ6脂肪とオメガ3脂肪の比率を正しく維持することも最適な健康、特に心臓と脳の健康のために必須です。オメガ3脂肪とオメガ6脂肪の理想的な比は1対1から1対5です
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Dr. Mercolaより

今回は、現在オークランド小児病院研究所上級科学者であり、カリフォルニア大学バークレー校生化学および分子生物学名誉教授のブルース・エイムズ博士が、長寿のためにビタミンとミネラルが重要なことを取り上げ、栄養素の「トリアージ・セオリー」という理論について説明してくれました。

エイムズ博士は今年初に他界しましたが、私の父より二週間早く生まれた方で、今90歳です。同氏は化合物の変異原性を検査するための普及したエイムズ検査を開発しました。近年は研究の焦点を変異原性から健康的な老化のための栄養に移しました。このテーマに関して同氏は近年、 Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS)にある論文を発表しました。

最適な長寿に必要な量とは異なる病気予防に必要な栄養量

その論文で多くのビタミンの推奨日量は長寿のためには不足であると提唱されています。すなわち、病気予防に必要な栄養素の量は最適な長寿のために必要な量とは異なります。同氏はこう説明しています:

「2006年、ビタミンへの興味がわきはじめました。代謝を盛んにするネルギー分子であるアデノシン三リン酸(ATP)を作る細胞内の組織、ミトコンドリアについて研究していた。しかし副作用のなかに酸化物の排出がある。酸化物は変異原性がある。DNAを損傷する場合がある。

放射線と同じように、タンパク質とその他の分子を損傷する場合がある。放射線を受けると発生する同じ酸化物の一部は、自分の中の老化するミトコンドリアからも発生している。これは老化にともない劣化する。いずれにせよ、私の考えていたことは、『ビタミンCとビタミンEだけであらゆる効能がある限り、その他のビタミンについてはどうでもよい』というものであった。

この考えを反省し始め、身体はアンバランスな食生活により常時ビタミン不足になっていることに気づいた。一般的に砂糖入りのソフトドリンクをいっぱい飲み、ビタミンがない空虚な炭水化物を平らげている。

身体は30種類のビタミンとミネラルが必要である。体内でミネラルは作られない。食事から得るしかない。ビタミンについても同じである。」

2006年、エイムズは純然たる理論を提唱した論文を公表しました。その中で、細胞にビタミンが不足すると、がんや心臓病等の長期的病気の予防に必要なものよりも目先の生存と生殖のために必須のタンパク質酵素を優先するかたちで配分し始めるという仮説を立てました。

どのビタミンも多くのタンパク質に含まれます。例えば亜鉛は2,000種類のタンパク質に含まれ、マグネシウムは300種類に含まれます。ビオチンは5種類と最も少ないタンパク質にしか含まれません。さて、この栄養素の配分が始まる時期から、がんや心臓病(あるいはその他の慢性病)が実際に発生するまで十年または数十年かかると考えられます。

「つまり、短期的健康のために長期的健康を不利にしているわけです」と、エイムズ氏は説明します。「今は完璧に若く見えていても、適切な食生活をしていないと、早く老化する。」

エイムズのトリアージ・セオリー

同氏はこの栄養素配分論を第一次世界大戦の際フランスの医者が用いていた用語から採用してトリアージ(仕分け)セオリーと呼ぶことにしました。当時医者の数が戦地で不足していたので、負傷した兵士を三つの群に分けました:手当せずに生き残る者、手当しても死亡する者、手当すれば生存できる可能性がある者。医者は手間と時間を費やす価値がありそうな三番目の群を治療しました。

「私の研究室の卓越した優秀な科学者ジョイス・マックカン博士がこう言った:『この理論を検証しましょう。一つのビタミンと一つのミネラルに関する文献を見直そう』と。そこでこの人は16種類のタンパク質に関与しているビタミンK2と、25種類のタンパク質にしか関与していないミネラルであるセレンについて見ることにした。それから9か月後、この人は両者ともにこのトリアージシステムが内蔵されていることを証明した科学論文を公表した」とエイムズ氏は言います。

多くのビタミンKタンパク質は血液凝固にかかわっているので、ビタミンK2については容易に説明がつく。血液凝固は生存のために必須であり、これが欠如すると切り傷だけで出血多量で死ぬ。血液凝固のためにビタミンKに依存するタンパク質がいくつもある。これらが[ビタミンK2]を優先的に取得する。セレンについても同じことがわかった。

このため飢える[タンパク質]こそ、がんや心臓病を予防しているものである。最近公表した自分の論文「Prolonging Healthy Aging: Longevity Vitamins and Proteins」(健康的老化の長期化:長寿のビタミンとミネラル)が、私たちの食生活は酷いものなので、この事実が老化の主要因になることを証明した。」

多くの人は決定的な長寿の栄養素不足

同氏の論文では、推定平均必要量(EAR)に基づいて、人々に不足しがちな栄養素を優先度に従ってランキングしました。例:

  • ビタミンD — EAR基準では70 %の人に不足
  • ビタミンE — EAR基準では60 %の人に不足
  • マグネシウム — EAR基準では45 %の人に不足

しかしEAR基準は長期的健康を考慮しないので、病気の予防のためにさえ最適量ではありません。今や、一例として、血中のビタミンD濃度は60~80 ng/mLあるべきで、これは85~90 %の人に不足しています。

ビタミンDは主に日光に当たると得られます。紫外線(UV)が皮膚に当たると、コレステロール派生体が活性ビタミンDに変換されるので日光のビタミンと呼ばれます。遺伝子の活性化に重要な機能をしている実際に必須のステロイドホルモンです。

エイムズ氏はご自身が、「ビタミンをふんだんに取っている」ことを認めておられますが、人生のほとんどの時期健康的な自然食品も食べてきたそうです。最適なのは食事からビタミンとミネラルを摂り込むことです。例えば、マグネシウムはクロロフィル分子の核にあるので、緑葉野菜はよいソースです。

同様に、葉酸はラテン語「folia」(葉を意味する)が語源です。同氏:「カリフォルニア工科大学(Caltech)で私の指導教官は葉酸を4トンのほうれん草から初めて分離した。葉酸塩は塩であり、葉酸は酸である。」

オメガ6対オメガ3比は健康な老化のために必須

オメガ6脂肪とオメガ3脂肪も健康な老化のために必須です。エイムズはこう説明しています:

「オメガ3は脳のために必須である。両者とも必要である。しかし調理油は大部分がオメガ6であり、身体のためには比率が重要である。魚を多く食べない限り、オメガ3は欠乏しているかほぼ欠乏状態である。

私の博士課程修了後の元指導教官ロンダ・パトリック教授博士は近年素晴らしい論文を公表した。アポリポプロテインE4 (ApoE4)がアルツハイマー病の遺伝子的原因である。この遺伝子のコピーを一つ持っているだけで、アルツハイマー病リスクが3倍高い。2つのコピーがあれば、このリスクは15倍になる。

1つのコピーがあり、脳震盪を受けると、アルツハイマー病になる。これは実に重要である。同博士は脂肪酸としてオメガ3が脳内に輸送されることを示すメカニズムについて究明した。

その血液脳関門は老化により劣化する。自分ほど年老いる頃には—私は90歳だった [2018年12月時点] —この脂肪を脳内に取り込む系統がよく機能しなくなる。同博士はこれこそアルツハイマー病の原因であることの根拠を示した。」

オメガ3対オメガ6脂肪の最適比は1対1から1対5ですが、平均的な西洋の食事では1対20から1対50に偏っています。アメリカ人を中心にほとんどの人は、このオメガ3対オメガ6比のアンバランスに対して自己責任があり、これを補正するには、二つのことをする必要があります:

  • 加工食品やサラダオイルで高温調理した食べ物を避けて損傷したオメガ6を摂り込まないようにする。有害なオメガ6が含まれる一般的な食品にはコーンオイル、カノーラオイル、大豆油、水素処理あるいは一部水素処理された脂肪、マーガリン、ショートニングが挙げられます。
  • 動物性オメガ3脂肪をもっと多く摂り込む。最適なソースにはイワシやアンチョビ、ニシン、さらに天然捕獲アラスカサーモン、あるいはオキアミ油等のサプリメントです。

長寿に必須のその他の栄養素

ビタミンやミネラルのほか、エイムズ論文は長寿のため特に重要なその他の栄養素には、主にキノコが生産するアミノ酸エルゴチオネイン等その他数種類の栄養素を取り上げており、同氏はこれらを「条件付きで必須」であるとして分類しています。同氏の説明によると:

「いくつかのビタミンは数種類のソースからしか摂れない。エルゴチオネインはビタミンとは正式には呼ばれていないが、ビタミンとみなすべきとする人もいる。この栄養素は体内で有益な作用をする。この物質はキノコ類から取れる。」

その他の(エイムズ論文に必ずしもすべてが含まれていない)長寿サプリメント:

N-アセチルシステイン(NAC)、グルタチオンの生合成に必須の前駆物質。そのメリットの多くは体内で自然に生産され、フリーラジカルによる損傷を減らし、重金属やその他有害物質のデトックスのために重要な抗酸化物質、グルタチオンの生産を増やすことにあります。

ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(NAD)、すなわちビタミンB3 (ナイアシン)の派生物質であり、代謝のために必須の補酵素。十分なNADは、損傷したDNAの一次修復メカニズムの一つであるポリADPリボーズ・ポリメラーゼ(PARP)という酵素を供給するために必須です。

ナイアシンを十分に取り込むと十分なNAD補酵素を得られます。しかし、人体には体内でNADを大部分再利用する非常に効果的な回収経路がある一方で、DNA損傷の原因である電磁波やその他のかたちの酸化ストレスに暴露させ続け、PARP消費によりNADが枯渇するので、増やすことを考えるべきです。

ゼアキサンチン、ルテイン、アスタキサンチン等のカロチノイド。

日常的に暴露されている溶解性毒素のデトックスに必要なコリン。身体はコリンを少しは作れますが、十分ではありません。

サプリメントとして取り込むことはできますが、通常はホスファチジルコリン等のリン脂質として販売されています。食生活で摂れるコリンの主なソースは玉子の黄身です。オメガ3とアルツハイマー病に関する論文の中で、パトリックはホスファチジルコリンに結合しているオメガ3なら脳に入ることを示しています。

アセチルLカルニチン(普通のLカルニチンとは違う物質)は記憶力改善のため特に有益なようです。最適なのは、一日2,000~2,500 mgです。数週間で違いを実感できるはずです。

アルファリポ酸:ミトコンドリアの健康をよくし、アルツハイマー病進行を阻害する抗酸化物質。