プロバイオティクスは認知力低下の予防を助ける

Fact Checked(事実確認)
認知症

早分かり -

  • ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・カゼイ、ビフィズス菌、ラクトバチルス・フェルメントゥムを含むプロバイオティク乳製品を12週間飲んだ高齢アルツハイマー病患者は、認知能力スコアが大きくよくなり、対照群は低下し続けました
  • 炎症マーカー値もプロバイオティク治療群では18%下がり、対照群は45%高くなりました
  • アルツハイマー病治療にはビフィドバクテリウムブレーベ(Bifidobacterium breve)A1菌種が特に有用のようです。B. breve A1を毎日経口投与した場合、マウスにおいてアミロイドベータが通常誘発する認知機能障害は緩和されました
  • プロバイオティクスは炎症プロセスを変調し、酸化ストレスから防御し、短鎖脂肪酸などの細菌由来代謝物が媒介するCNS機能を変調し、腸内細菌組成の変化を通じて、発病を予防することにより神経萎縮を阻止します
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Dr. Mercolaより

「第二の脳」として腸の状態が神経系の健康のために重要な機能をすることは周知です。重要な点は、プロバイオティクス(有益な細菌)はアミロイドのプラークや縺れなどアルツハイマー病(AD)の病理学的特徴を削減するのを助けることです。

2016年、こうした研究の中で最も意義あるものがFrontiers in Aging Neuroscienceに掲載されました。アルツハイマー病の高齢患者60人がプラセボとラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・カゼイ, ビフィズス菌、ラクトバチルス・フェルメントゥム入りプロバイオティク乳製品のいずれかを12週間飲みました。

研究の開始時と終了時に被験者は標準的認知判定テストと極めて高感度のCRP(C反応性タンパク質)検査を受けました。CRPは炎症マーカーとして有力な指標です。神経学者のデビッド・パールマター博士が次のような報告をしていました:

「本研究の結果は驚くべきものであった。プラセボ群は炎症マーカーの一つhs-CRPが予想以上に45 %も増大した。しかし、プロバイオティクを飲んだ群はhs-CRPが18 %減少、炎症が激減したことを示していた。

真に意義がある結果は実は次のことであった。12週間の間にプラセボ群の患者は、想像がつくように、精神的に弱化した。しかし、炎症を減らすプロバイオティクを飲んでいた群は実際に改善し、MMSE [ミニメンタルステート検査(簡易知能評価スケール)] スコアが8.67から10.57へ上がり、この増大は非常に大きな改善を示す。

繰り返すとプロバイオティクス群の被験者は精神機能の低下が停止しただけではなく、脳の機能が回復した! すなわち、炎症は腸内細菌の健康状態や多様性により直接的に決まり、この事実は脳の健康、機能、病気耐性において重要な意義を持つ。」

腸と脳は連関している

それ以来その他数本の公表された研究でもプロバイオティクスが認知能力改善やアルツハイマー病などの認知症の予防を助けることが判明しました。このことはあまりに単純すぎて信じられないかもしれませんが、腸と脳の間に深い連関が存在することを考慮すればすぐわかります。Harvard Healthにこんな説明がありました:

「腸と脳はつながっていること、腸脳軸と呼ぶパートナーシップが存在することは研究から明らかである。腸脳は消化管を制御する神経系の一部である腸内神経系と脳を含む中枢神経系の間の生化学的信号伝達によって連動している。

脳と腸の間の主な情報接続を担うのが迷走神経であり、これは体内の最長の神経である。腸は脳と同じ神経伝達物質の多くを分泌するので第二の脳と呼ばれる。腸に影響するものは脳にも影響することがよくあり、逆も成り立つ。

脳が問題を検知すると腸に警告信号-闘争逃避応答-を送るので、ストレスが多い出来事があると、胃の神経痛や胃もたれなどの消化不良が起きる。この逆に、過敏性腸症候群(IBS)、クローン病、慢性便秘のような胃腸の異常は不安やうつ病の原因になる。」

プロバイオティクはアミロイドベータ誘発性機能障害を予防する

2017年、Scientific Reportsに掲載されたある研究によると、ビフィドバクテリウムブレーベA1菌種はアルツハイマー病治療のために特に意義があるようです。アルツハイマー病のマウスモデルを利用した研究者らはB. breve A1を毎日経口投与すると、アミロイドベータが通常誘発する認知機能障害を軽減することを確認しました。その執筆者らによると:

「この細菌の生育不能な構成要素または代謝物の酢酸塩がAD ウスの認知力低下を一部改善したことも実証した。

遺伝子特性解析からB. breve A1の消費がアミロイドベータが誘発する炎症や免疫反応性遺伝子の海馬発現を抑止することが明らかになった。両者を合わせてとらえると、B. breve A1で ADによる認知障害を予防しうる治療の可能性があることが示された。」

こうした保護効果の背後にあるメカニズムの一つは、海馬の中のアミロイドベータが誘発する遺伝子発現変化の抑制であることが判明しました。まとめていえば、この細菌でアミロイドベータの毒性への効果が増大しました。

興味深いことに、B. breve A1はマウスの腸内フローラ組成を有意なほどには変えず、むしろそのメリットの多くは腸内細菌による発酵の副産物である酢酸塩の血中濃度が大幅に増えたことに関連するようです。その研究の筆者らは次のように説明しています:

「腸内細菌叢の主な機能の一つは腸内での食物繊維の発酵と短鎖脂肪酸(SCFA)特に酢酸塩や酪酸塩であり、これらはビフィドバクテリアによる炭水化物代謝の主な最終産物である。」

マウスの血中SCFA濃度を分析すると、B. breve A1で処置したものは対照群より酢酸塩が大幅に増加しているが、プロピオン酸や酪酸は増加していないことでした。

しかし、細菌叢由来のその他のSCFAも機能するようです。2019年のある研究は、プロバイオティクスとプレバイオティクスを両方とも与えたマウスの空間記憶テストのスコアが大幅に上がり、この改善は脳由来神経栄養因子(BDNF)の濃度増加によるものでした。

腸内細菌による繊維質の発酵によって生産されるSCFAである酪酸塩はBDNFを分泌させます。その執筆者らによると、この改善は「炎症促進性サイトキンレベルの減少と海馬の電気生理学的結果の改善」とも相関性がありました。

この事実をもとに研究者らは、「結果からすると認知障害の進行はプロバイオティクスとプレバイオティクスが誘発した細菌叢の変化により抑えられる」という結論に至りました。

プロバイオティクスはADの予防や治療の可能性を秘める

2018年の論文「アルツハイマー病における認知障害予防のためのプロバイオティクス」は、プロバイオティクスが以下の効果により神経萎縮の進行を阻止することを明らかにしました:

  • 炎症プロセスの変調
  • 酸化ストレスの軽減
  • 短鎖脂肪酸などの細菌代謝物が媒介するCNS機能の変調
  • 腸内フローラの組成変成による病原菌発生の抑制

炎症および酸化ストレスの変調は主に腸内フローラの腸脳軸への効果により実現され、この軸は中枢神経系(CNS)と腸内神経系(ENS)のほかにも自律神経系、神経内分泌系、免疫系も含みます。

次にこれらの系統は免疫機能や代謝ホメオスタシスの調節に関わる様々な経路とつながっています。これらの経路には迷走神経と視床下部–下垂体–副腎(HPA)経路を含みます。「アルツハイマー病における認知障害予防のためのプロバイオティクス」によると:

「腸内フローラの変成は神経病進行に影響し、AD発病の主要因であることを示す根拠は増え続けている。

例えば、最近の前臨床研究はAPP遺伝子組換えマウスの腸内細菌叢が健康なマウスに比べて顕著に変化していることを明らかにした。ADマウスに特徴的な細菌叢の組成がアミロイド蓄積を促すものと考えられる。

さらに、AD被験者の腸内フローラ組成を定性分析したある臨床研究は、対照群と比較して細菌の多様性減少と細菌の冗長性の変化が明らかとなった。こうした変化にはフィルミクテス、ビフィドバクテリウムの減少、Bacteroidetesの増加が挙げられる。」

研究者らは腸の浸透性を増大させる病原菌のコロニーを増やす腸内フローラ変成が腸脳軸に支障をきたし、アルツハイマー病リスクを増大させると考えています。この理論の一例として、腸内細菌の感染は、アルツハイマー病を悪化することを解明したある研究をその研究者らは採り上げています。

ADにおける免疫活性と全身炎症

アルツハイマー病においては免疫が活性化することと低レベルの全身炎症および腸炎が重要な要因であり、プロバイオティクスにこの要因を抑制する効果があると考えられることを把握しやすくなります。2018年のある研究には次のように説明されています:

「認知力障害患者の腸内フローラの機能に関する最近の研究で腸内細菌の菌種と相関する数種類の便内および血清中の炎症マーカーを分析した。

認知力低下症状を持つ連続来院していた外来患者55人のうち患者23人からなるサブグループから、腸内細菌分類群と免疫系さらに血清中および便中炎症マーカーを分析した。

免疫活性の兆候が検知されたことは、初期の事実を確認した結果であったし、最も興味深いことに、便中S100A12と血清ネオプテリンの間に強い相関性が発見されたので、低レベル全身炎症と腸炎のあることが示された。

性別による差異は見られなかった。これらの事実は、認知力悪化と認知症の原因として共通して腸炎が発生していることを再度強調する。以前のある研究でAD発病における炎症促進タンパク質の機能について説明されていた。

認知力に悪影響がある循環CRPは臨床的には急性炎症の兆候を伴うことなく研究対象系列においては高かったし、低レベルの炎症がこの患者群において発生していることを示した。炎症促進性のクロストリジウムクラスターIと抗炎症性Faecalibacterium prausnitziiは相関性が強いことが判明した。

最近のある論文のなかで、F. prausnitzii を含む選択した細菌性便分類群が便中に豊富に存在することと認知障害患者および対照群の炎症促進性サイトキンと抗炎症性サイトキンの血中濃度を測定した。

アミロイド陽性患者は両方の対照群やアミロイド陰性患者より炎症促進性サイトキン濃度が高かった。この研究からは、腸内細菌叢関連の炎症とアミロイド症の間の因果関係が存在すると考えられる。

以上の事実を総合的にとらえると、細菌叢腸脳軸の変化は認知力低下プロセスにおける神経炎と相関性があると考えられる。神経炎は認知症発病の初期現象なので、これらのマーカーはこの破壊的プロセスの開始初期において重要である。」

アルツハイマー病患者の免疫活性と炎症の増大は、加齢にともなう細菌叢の変成が原因であるとその執筆者らは考えています。

さらに、「認知症予防というプロバイオティクスの機能は有望であり」、プロバイオティクスが神経萎縮を予防するメカニズムを把握するにはさらに研究を要するともしています。

アルツハイマー病の予防と治療~プロバイオティクスを超えて~

アルツハイマー病の予防と治療のため腸内フローラの最適化は必須ですが、これはもっと包括的計画の一環として行うべきです。UCLA医学校神経萎縮病研究部門座長のデール・ブレーデセン博士が著作「The End of Alzheimer's: The First Program to Prevent and Reverse Cognitive Decline」(アルツハイマー病の終焉: 認知力減少の予防と逆転を可能にする初のプログラム)で治療方法をいくつか取り上げています。

ブレーデセン博士はアルツハイマー病に大きく影響する数十種類の変数を特定し、ReCODEと名付けた治療法を開発しました。

2014年、ブレーデセン博士は36種類の健康的なライフスタイルパラメータをレバレッジすることでアルツハイマー病が患者10人中9人で逆転したことについて詳しく論じたある論文を公表しました。これらのパラメータには運動、ケトン食、ビタミンDやホルモンの最適化、よく寝るようにすること、瞑想、デトックス、グルテンと加工食品を一切食べなくすることを含みます。このプログラムを詳しく説明している同氏の論文は全文をウェブからダウンロードできます。

さらに、私の以前の記事「Top Environmental Risk Factors for Dementia Identified」(認知症の最大環境リスク要因)にも有用な案内が載っています。アルツハイマー病発病率は増加し続けるので、止めることができるライフスタイルの要因によりこの病気が促され、従来の薬剤治療では効果が無いあるいは最悪であることに気づくことがたいせつです。

パールマター博士が2018年12月にある記事の中で説明しているように、アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼ阻害剤というアルツハイマー病に一般的に処方されている薬は、実は認知力低下を速めることが明らかにされました! 当然このことはあって欲しくないことであり、ライフスタイルを変えるほうがはるかに重要であり、これを早く始めるほどよいのです。

腸内フローラに栄養を与える方法に関していうと、最適なのは発酵野菜を自分で作ることで、多くの有益な細菌をサプリメント費用のごく一部で得られます。そのための説明や役立つヒントは私の以前の記事「自宅で発酵させるためのヒント」をご参照ください。