睡眠と睡眠遮断の科学

睡眠遮断

早分かり -

  • 健康的な睡眠は一段階ごとに 5 分から 15 分続く数段階から成り、全周期を一巡するのに 90 分から 120 分要します。こうした段階から成る睡眠周期は一晩に 4 回から 5 回起きています
  • どの 24 時間範囲でも 6 時間未満しか寝ないと認知力に支障をきたします。2013 年に米国では眠気がありつつも運転したドライバーによって 72,000 件の自動車事故が発生し、死亡 800 人、負傷 44,000 人でした
  • アンケート調査によると 63% の人は健康でいるための十分な睡眠が取れておらず、69% の人は頻発する睡眠障害に苦しみ、22% は日中眠すぎて生活の質に支障が起きていることが示されました
  • 近年の研究では、毎晩 7 時間寝る人は生物的年齢で測った場合、時間的齢より心臓年齢が 3.7 歳年取っており、 5 時間以下しか寝ていない人は心臓の生物学的年齢は最も老けており、時間的年齢より 5.1 歳年取っていることがわかりました
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Dr. Mercolaより

睡眠遮断は軽度から破壊的な程度までいくつもの心臓への影響や帰結的異常を起こします。2015 年のNational Geographicに掲載されたビデオ「Science of Sleep」(睡眠の科学)は歴史上最悪の環境破壊の一つを起こしたほど睡眠遮断されていた三等航海士グレゴリー・カズンズ氏のことから始まります。

カズンズ氏はスーパータンカーエクソン・ヴァルデズ号を操舵していたときの直前 48 時間以内に 6 時間しか寝ておらず、原油 1100 万ガロンがプリンス・ウィリアム湾に流出し、野生動物 23 種及びほぼ 13,000 マイルの海岸線生息地が破壊されました。

実際に研究によるとどの 24 時間以内でも睡眠を 6 時間未満しか取っていないと、反応時間が長くなり、認知力に支障をきたし、理性的判断ができなくなることがわかっています。

2013 年だけで米国では眠気がありつつも運転したドライバーによって 72,000 件の自動車事故が発生し、死亡 800 人、負傷 44,000 人でした。この事故数は運転中にテキストメッセ―ジに気を取られたり酔っ払い運転のために死亡した人を合わせたよりも多いです。

睡眠遮断が重大事故の原因であり、生命をリスクに晒す

米国睡眠学会 (American Sleep Association) によると、40% の人は一月に少なくとも一回は日中ふと眠気に襲われ、ほぼ 5% が運転中にうとうとしていました。たいていの人は「しなければならないことがある」と思うので睡眠をはしょります。

しかし、そのために結局生産性とは正反対の帰結を招くことを明白に示すエビデンスがあります。ヴァルデズ号の原油流出やスペースシャトルチャレンジャー号の事故等最悪事態では死人が出ました。

アンケートによると 63% の人は健康でいられるほどじゅうぶんに寝ておらず、69% は頻繁に睡眠障害に苦しみ、22% の人は日中眠むすぎて生活の質が悪化していることを示しています。それでも、ほとんどの人は終えなければならないことがあるので眠くても押しとおすしかないと言います。

しかし建設労働者や医者、パイロット、トラック運転手等が出勤して「やりとおす」しかないのだとしたら、周囲に死者が出るほどの影響があります。言わずもがなですが、睡眠遮断自体は健康にも有害であり、免疫系を壊し、すぐ病気になる原因の一つであると言えるでしょう。

シカゴ大学睡眠代謝健康センター所長イブ・ヴァンコーター氏の研究も、一晩に 6 時間未満しか寝ないとインスリン抵抗性のリスクが大きく増加し、これはほとんどの慢性病の根にあります。

「Science of Sleep」で説明されているように、 1980 年代に行われたある研究は、マウスを 17 日間寝かさずにおいたら中には死ぬものがありました。その二つの原因は免疫系機能障害と血液中毒でした。

睡眠不足で心臓は老いる

複数の研究が睡眠不足と心臓の急速な老化を含むいくつもの健康の異常に相関性があることを実証しました。毎晩 7 時間寝た人は生物学的年齢に基づくと、時間的年齢より心臓が 3.7 歳老けている傾向があります。

日常的に 6 時間乃至 8 時間睡眠を取っていた人は時間的年齢より平均で 4.5 歳心臓が年老いていた反面、 5 時間以下しか寝ていない人は時間的年齢より 5.1 歳と最も年老いた心臓年齢でした。

その研究の主筆者米国疾病管理予防センター (CDC) の心臓病脳卒中部門上席研究員チュアンヘ・ヤン氏が次のように説明しています:

「人の推計心臓年齢と時間的年齢の相違は『過度の心臓の加齢』にある。心臓の加齢が高いほど心臓病リスクが高いことを示す。」

睡眠の質は血圧と心臓病リスクにも影響する

その他の近年行われた研究も睡眠障害と心臓病の相関性を確認しています。その近年行われた研究が、たとえ睡眠時間はじゅうぶんでもその睡眠の質が心臓病に関連する高血圧と血管炎症リスクに大きく影響しうることを特定しました。

寝つきが悪かったり夜間に 1 回やそれ以上目が覚めるといった軽度の睡眠妨害がある女性の場合は、「寝つきがよく安定した睡眠ができる人より高血圧になりやすい」ことがわかっています。研究者によると:

「収縮期血圧は劣悪な睡眠の質と直接相関性があり、拡張期血圧は交絡要因に関して調整後、閉塞型睡眠時無呼吸リスクを伴う有意な閾値である。睡眠の質が悪いと内皮細胞核因子カッパBの関連性と関連していた。

不眠症及び長時間の睡眠開始遅延も睡眠の質が悪いと内皮細胞核因子カッパBの関連性と関連していた。

こうした事実は、睡眠時間が不適切でなかった女性においてさえ、悪い睡眠の質や不眠症等のよくある頻繁に無視される睡眠障害が血圧上昇や血管の炎症増大と関連することを直接示すエビデンスである。」

睡眠の異なる段階とその意義

睡眠は単一の状態ではありません。健康的な睡眠は一段階ごとに 5 分から 15 分の数段階から成り、全周期を一巡するのに 90 分から 120 分要します。

完全な睡眠周期は浅い眠りで始まり、深い眠りに進み、次に深い眠りから浅い眠りへ戻ってから REM に入ります。一晩にこれらの段階を 4~5 回周期的に通過しており、この周期は生物学的にも心理学的にも極めて重要です。

  • 睡眠段階1 と2 (浅い睡眠、非REM) — 寝付いたばかりの頃、体内の生物的プロセスは遅くなりますが、脳は、どの記憶を貯蔵し、どれを破棄するかかについて決定段階にある編集工程を始めたばかりなので活性化したままです。
  • 睡眠段階3 と4 (深い睡眠、非REM) — これらの深い睡眠段階において心理的な浄化とデトックスが脳内で進む準昏睡状態に入ります。脳細胞はこの深い睡眠段階におよそ 60% 縮小します。このため細胞間の隙間が増え脳髄液が残骸を排出するためのスペースが増えます。
  • 睡眠段階5 (REM) — この最終段階において、急速眼球運動 (REM) 睡眠期に入り、ここで夢を見ます。この段階では、脳は覚醒状態と同じく活性化していますが、身体は麻痺状態で、夢が行動として反映しない状態です。

以上の段階全てが重要であり、これらの段階を毎晩十分時間を掛けて一巡することが重要です — 特に深い段階が重要です。

段階 3 と 4 が欠落したり中断されると、脳は残骸で詰まり、アルツハイマー病にもつながるし、睡眠遮断は重篤な認知症のリスク要因です。段階 1 から 4 を通過することで朝目が覚めたとき新鮮な気分になれ、段階 5 は記憶のために欠かせません。

睡眠遮断は精神衛生を害する

長時間 REM 睡眠が無いと起きている間でも実際に夢を見始める状態にさえなり、せん妄や野蛮な幻覚に至ります。「Science of Sleep」は 1963 年にランディー・ガードナーという若い男性による睡眠遮断実験を監督したスタンフォード大学精神医学・行動科学教授Dr.ウィリアム・ディーメントによる説明を特集しています。

ディーメント氏はその中で「その若い男性が精神異常になるかどうか確認するため待機しました」と言っています。ガードナー氏は 1959 年に寝ない時間の世界記録を破ろうとしたディスクジョッキーのピーター・トリップ氏より 63 時間長い 264 時間という不眠時間新記録を樹立しました。トリップ氏はタイムズ広場から連続放送して 201 時間一気に起き続けました。

トリップ氏の場合幻覚が三日目に起きました。靴の中に蜘蛛が見え、絶望的な精神分裂になり、人が自分を毒殺しようとしていると思い込んでいました。また、喧嘩っ早くなったほか、乱暴な言葉を使い始め、参加者の精神科医の一人によると「明確に精神分裂病」になっていたそうです。

ガードナー氏はその反面、 8 日目や 9 日目までは全くいつも通りの気持ちでいられ、終局までは幻覚体験が始まらなかったと主張していました。11 日間起き続けた後 14 時間寝てその実験が終わると、理解力テストと精神衛生検査が実施されました。ガードナー氏は全く正常であることが判明しました。

ディーメント氏によると、ガードナー氏の実験は長時間の睡眠遮断でも精神病にならないことを実証しました。その反面、トリップ氏の実験は、起きていても - 歩き話していても - 脳波は睡眠状態にあることを示しており、幻覚が最も出やすかったのは REM 期でした。基本的に同氏の場合は起きた状態で悪夢を体験していました。

さらに、トリップ氏は実験が終わった後で 24 時間寝た後、精神病の兆候はなかったものの、多くの人は同氏の人格がそれ以来恒久的に悪化したと主張しました。以前のように陽気で気さくではなくなったし、同氏を知る人は 8 日間の睡眠遮断がプシケを長期的に損傷したと主張しました。

最も考えられることは、睡眠遮断は様々な生物学的、環境的、おそらく遺伝子要因にも依存して人によって異なるしかたで影響を与えるのだと思います。

遺伝子、時差ボケ、ストレス化学物質による睡眠への影響

睡眠遮断は時差ぼけで悪化する場合があります。航空疲労とか時間帯変動症候群、非同期症候群とも呼ばれ、時差ボケは時間帯を超して旅行すると体内時計が狂うので発生し、日中の眠気や無気力、夜間不眠症状、イライラ、混同、集中力悪化に及びます。

興味深いことに研究者らは 家族性睡眠相前進症候群という遺伝的な睡眠障害を持つ人は正常な人より概日体内時計が3時間進んでいることを特定しました「Science of Sleep」によると、科学者らはこの遺伝子に関連するタンパク質を同定しようとしており、「時差ボケ薬」の開発への利用を期待しています。

「Science of Sleep」はさらに、目が覚める際のストレス化学物質の機能を示す研究も取り上げています。検査からわかったことは、人体は意図した起床時間の約一時間前に特定のストレス化学物質を分泌し始め、これは精神的な期待や意図だけで生じることでした。

言い換えるとストレス化学物質は一種の体内目覚まし時計として機能し、身体を自分が起きようと思った時間に起きるように準備しているのです。

一般的な睡眠ガイドライン

では、精神衛生及び肉体の健康を最適に維持するのに何時間寝ればよいのでしょうか? 2004 年から 2014 年までに公表された 300 本以上の科学研究についてのある科学的評価によると次のような推奨が出されています。病気や怪我、妊娠している場合、普通より長く寝る必要があると考えられることを念頭に置いてください。

年齢階層 健康の維持に必要な睡眠時間

新生児 (0~3カ月)

14~17時間

乳幼児 (4~11カ月)

12~15時間

幼児 (1~2歳)

11~14時間

就学前児童 (3~5歳)

10~13時間

就学児 (6~13歳)

9~11時間

十代 (14~17歳)

8~10時間

成人 (18~64歳)

7~9時間

高齢者 (65歳~)

7~8時間

健康で長生きするつもりなら人生において睡眠を最優先すべきことは明白です。多くの人にとって、このことは夜遊びの傾向を絶ち、ほどよい時間に就寝することを意味します。

6 a.m.に起きなければならない人は、寝付くまでの時間にもよりますが、消灯期限を 9.30 や 10 p.m.にする必要があります。