運動はがん予防と治療の基幹的要素です

運動とがん

早分かり -

  • 運動はがん予防と治療に欠かせないもので、がん発生リスクを下げ、快復率を高め、再発リスクを下げます
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Dr. Mercolaより

私の著作「Fat for Fuel(脂肪を燃料にする)」を書き上げた後で運動が、実際にミトコンドリアの生体生成というプロセス、つまりミトコンドリアが増殖して分化するために必要な信号であるPGC 1-αに効く最も強力な信号であることを認識しました。

私の最新著作「Fat for Fuel,」で説明しているように、ミトコンドリア機能障害がほどんどのがんの原因なようであり、ここを標的にする方策ががんを治せる可能性が高いようです。

この記事で検討した様々な研究が運動をでがんを予防し処置できることを支持していても、運動は「Fat for Fuel」で説明しているように、身体にケトン性食生活を利用した脂肪を主な燃料として燃やさせることに比べると劣ります。

運動のがんへの効能を確認するドキュメンタリーや研究

ドキュメンタリー「Exercise and Cancer(運動とがん)」 (オーストラリア放送協会制作 Catalyst TV番組)がパースの運動医学研究所(以下運動医療)で行われている特定の標的を対象にした、化学療法と放射線治療を受けているがん患者のための運動の効能について特集しました。

運動医学研究所の共同所長ロバート・ニュートン教授はがん治療のために運動を利用する発想は、治療中の患者がしばしば弱くなりすぎて闘病できなくなっていることを観察してきたがん専門医から出たものです。

体力を増強し、副作用を最小限にし、継続的な肉体の衰退を阻止するために、ニュートン教授のいいたいことは次のようなことに要約されます:「患者ががん治療の過程でこなせる程度の患者別運動プログラムを処方すれば、違いが生じるのではないか?」

運動がいかにがん治療の結果を改善するか

ドキュメンタリーが特集した運動実験の間に運動医療の医師たちは患者がなかなかよく運動をこなしていることに驚き入りました。日常運動をした38人の患者は化学療法のよくある副作用 — 特に吐き気や倦怠が減っていたようなのです。

運動医療の患者はがん処置の日に運動していただけではなく、週にあと3日も運動しました。これまで苦労してかき集めた結果に基づいて、ニュートン教授はがんを治す上で運動を完了することの価値 — たとえ軽度な運動でも — を強調しています。同氏によると:

「比較的軽度な肉体的活動をある程度行う患者はがんで生き残るチャンスが倍増することを示す研究がますます増えています。」

がん治療中の運動で患者は筋肉質量を維持することもできました。平均的ながん患者は、ニュートン教授によると、薬剤治療のタイプや期間によって異なり筋肉質量が10~15%減少していました。

明記すべき点は運動プログラムに参加した患者は筋肉がほとんど減少しなかったか全く減少せず、中には増加した人もいました。ニュートン教授はさらにこう語っています:

「筋肉質量に関するメリットは、薬剤で筋肉質量の減少を食い止めることができないため、実に目を見張るものがあります。効果がある唯一の方法は極めて照準を絞った処方されたしかもカスタム化された運動であることです。」

運動は標準的がん治療の一環として行うべき

運動医療のケースと同様にイギリスのマクミランがん支援団体も標準的がん治療の一環として運動を含めることを強く支持しています。がん治療中の患者が適度な集中強度運動を週に2時間半行うことを勧めていました。

運動の合間に体力を取り戻す休憩を忘れないことが大切です。運動とはダメージを与えるので、適切な回復が実際には運動の効能を上げることになります。

運動はほぼどんながん治療プログラムでも欠かせません。結局、運動すれば従来型のがん治療にある最も一般的な副作用を克服できるようになり、次のような効能が実証されています:

不安、うつ状態、気分消沈やストレスの軽減

骨の健康増進

筋力強化、行動力改善

食欲増進

よく眠れるようになる

健康な体重の維持

便秘防止

疲労軽減と体力アップ

心臓の健康持続

欧州の研究ががんには運動が効くことを強調

ニュートン教授チームはがん治療における運動のメリットに焦点を当てた以前の欧州の二本の研究から得られた結果に価値を見出しました。

2013年に公表された最初の研究ではスウェーデンで10人の健常な若い男性が強度を増すように60分自転車で運動しました。血清サンプルを参加者ごとに運動前(安静時血清)と自転車運動後(運動血清)に採取しました。

運動血清を前立腺がん細胞と48時間培養したところ、10個のサンプルのうち9つはがん細胞の増殖を阻止しました。10個のサンプルから得た運動血清をプールしてがん細胞を96時間培養したら、安静血清と比べて31%高い腫瘍細胞増殖の阻止効果がありました。

第二の研究はデンマークで2016年初頃にがんを持つマウス2群を使って行われました。一群には回し車に自由にアクセスさせ、二群には制限しました。

この実験を肝がんと肺がんを含む5種類の腫瘍モデルの範囲でマウスのグループ全体に反復して行った結果が同じでした: マウスの運動群での腫瘍発生率と増殖は運動をしなかった群より60%以上低下しました。

腫瘍細胞を切り取って観察したら、運動したマウスから得た腫瘍にはがんを能動的に破壊する自然なキラー(NK)細胞が無数にありました。また、運動中にエピネフリンとインターロイキン6 (IL-6)が分泌されたことも確認できました,これらはNK細胞の放出と効果を増強しました。

研究の著者は次のように提言しています: 「以上の結果から、運動とエピネフリン、IL-6やNK細胞の活性化と再分配の関連性が突き止められ、最終的には腫瘍の増殖抑制と関連している。」

運動の乳がんに与えるよい効果

ドキュメンタリーが特集した運動医療の実験参加者で乳がん患者のナタリー・マシューズ氏は研究所の勧める運動プログラムに躊躇せずに同意しました: 「その頃、私はあまり元気も健康もなかったので、試さない理由がありませんでした,」と彼女は言っています。

マシューズ氏はカスタム化運動プログラムを院内の運動クリニックで患者のがん治療前後いずれかに行いました。最初は家族が運動が果たしてよいものかどうか疑っていたのですが、ご本人同様にその多くの効能を認識するようになりました:

「家族は私が運動すべきではないと考えていました。私があまりに貧弱に見えたので家族はちょっとこわかった、大胆なことだと思っていましたが、私が帰宅したとき、まだ私が歩いていて、ソファーに寝転がったり典型的な患者に診られる症状の一部が解消していたので、家族が効能をわかってくれるだろうと思いました。

信ずるか信じないかの問題ではなく実際に運動で気分がよくなりました。毎回終わった後は気分がよかったです。もう少々余った体力で外へ歩きに出て、疲れが少々減っていました。吐き気も減り、同じレベルにとどまりました。」

Journal of the National Cancer Instituteに掲載された2015年のある研究は、有酸素運動がマウスの乳がん腫瘍増殖を遅延させること、がんが化学療法により反応するようになることを実証しました。デューク大学医学部放射線がん科教授でその研究の共著者マーク・デューハースト氏は化学療法と放射線薬物の効果を上げるために腫瘍へいかに酸素の流れを増すかについて長年研究してきました:

「これらの結果には本当に感心しています。過去30年のほとんどを腫瘍の低酸素症を解消する方法を見つけようと取り組んできました。様々なアプローチを観察しました - 薬物、高熱、新陳代謝操作等。どれもあまり成功せず、一部はむしろ悪化させたこともありました。従って運動によるこうした結果には励まされます。」

日常の運動で前立腺がん生存率をアップ

全米がん協会による2016年のある研究によると前立腺がんの男性も運動でメリットを得られます。1992~2011年の間に局部前立腺がんと診断された50~93歳の男性10,000人を対象にしたその研究から次のようなことが明らかになりました:

  • 診断前に最高レベルの運動をしていた人は最も運動していなかった人より30%死亡率が下がっていました
  • 診断後に最高レベルの運動をした人は最も運動していなかった人より34%死亡率が下がっていました

前立腺がんと診断された男性の運動による効果を研究した2014年のあるスウェーデンで行われた研究が活発なライフスタイルの男性が座っていることの多い人より生存率が高いことが判明しました。「前立腺がんの男性が肉体的に活発でいることにより生存率が高まる可能性が極めて高い」とストックホルムにあるカロリンスカ研究所の同研究の共著者であるステファニー・ボン氏が提言しています。

ボン氏のチームは1997~2002年に初期前立腺がんと診断されたスウェーデンから集めた男性4,623人のデータを解析しました,これには2012年まで各参加者の肉体活動レベルと全般的健康状態についての詳細追跡を含みます。

診断後に毎日20分以上自転車に乗るか歩いた男性はこれより活発でなかった人より前立腺がんで死ぬリスクが39%低かったのです。さらに毎日の運動は任意の原因による男性の死亡リスクを30%下がりました。

前立腺がんの治療を受ける男性はたいてい抗アンドロゲン薬を投与されますが、これが嗜眠的な状態、体重増加、時には骨粗鬆症にまで至ることがある骨損失につながります。8年前に運動医療のチームは3種類の運動を抗アンドロゲン薬を投与されていた男性のグループに処方しました。

1つのグループは有酸素運動のみ、別のグループは有酸素運動と耐久トレーニング、第三グループは耐久トレーニングとインパクトトレーニングを行いました。インパクトトレーニングはバウンド、ジャンプ、スキップしました。

顕著な点は、第三グループの男性は骨鉱物密度が維持または増加した一方、他の二グループでは6か月の間に平均して3%骨が減りました。ニュートン教授は次のように語っています: 耐久運動とインパクト負荷の組み合わせのみ骨損失を完全に解消しました。」

大規模研究から運動でがんリスクを軽減する価値が判明

Journal of the American Medical Associationに発表された2016年のある研究は対象にした26のがん症例のうち13症例でがんリスクが大幅に減ったことが運動の効果であると結論しました。その研究は欧州と米国の大規模な十数群の対象になりうる人口144万人に関するコーホート調査を行いました(参加者グループをその後も数年追跡した)。

参加者の年齢、BMI(体格指数)、性別、自己申告による運動データ、喫煙状況、また該当する場合はがん診断状況を解析して様々ながんに及ぼす運動の効果を同定した研究です。

186,932件の一次がんがフォローアップ期間中に診断されており、そのメディアン罹病期間は11年でした。個体の体重や喫煙歴には関係なく、肉体活動ががんリスクを軽減することをデータが示しています。例えば、運動によるリスク軽減率は腎臓がんが23%、肺がんが26%、肝臓がん27%、食道腺がん42%でした。

日常の運動でがん再発リスクも軽減

運動によるがん再発リスク軽減効果も優れています。例えば、日常運動している乳がん患者と大腸がん患者では運動をしない人より再発率が半減したこを以前の研究が示しています。マクミランがん支援団体執行理事シアラン・デヴェインさんはこう説明しています:

「がん患者は肉体的活動が回復や長期的健康にどれほどよい効果があるかを知れば衝撃を受けるでしょう。症例によっては苦しみ抜く過酷な処置を再度受ける確率が下がります。その活動は何も無理をするほどのことではなく、単に庭いじりしたり早歩きでの散歩や水泳等全てがよいです。」

コペンハーゲンの肉体活動研究所研究員でデンマークの研究の共著者パーニル・ヘイマン氏はこう説明しています:

「運動で生活の質が改善することを多くの研究が示しました。例えば、人口対象の研究に基づいて健康体であると宣言されたがん患者ほど運動すると生存率が高まることが判明しています。」

がん治療を受けていて初めて運動を検討する方なら、主治医にまず相談してください。運動生理学者のアドバイスを求めることも必要でしょう。パーソナルトレーナーではなくがん患者や生存者を扱っている運動生理学者が必要です。

運動生理学者なら投与されている抗がん剤やがん治療の種類について知識があります。このような方法なら、運動プログラムを特定のがんタイプに応じて個別のニーズにカスタム化することができます。最後に、ニュートン教授は標準的ながん治療に運動を取り入れることの価値を強調しています:

「運動がそれほどよいという根拠は今や明白になっており、がん患者は運動を用いる医療を受けるべきです。とても強力な医療です。実際に運動すると生存率を高め、副作用は全くありません。従って、今必要なことは医療と健康関連のプロたちが運動を取り入れてがん患者の全体的管理の中で中核的構成要素にすることです。」