運動が脳の認知機能と脳細胞の再生にもたらす注目すべき効果

エクササイズと健康

早分かり -

  • 運動は、認知機能を高め、認知症の発症を防ぐのに役立つ。
  • 年齢に関係なく、ニューロン新生(新しい脳細胞を作り成長させるプロセス)を促す。
  • 運動は、既存の脳細胞を保護し、新しいニューロンの成長を刺激する脳由来神経栄養因子(BDNF)の生成を促す。
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Dr. Mercolaより

多くの科学者が運動と脳の健康の関連性について長年研究を重ねてきました。運動が脳を形成し、萎縮を抑えるだけでなく、認知能力を高めることを示す有力なエビデンスがあります。

例えば、運動によって、年齢に関係なくニューロン新生(新しい脳細胞を作り成長させるプロセス)が促されます。

Real Simple 誌で掲載された特集記事では、以下の内容をはじめとして、運動が脳にもたらす多くの効果を紹介しています。

運動はストレスやうつへの抵抗力となる

運動はうつを克服する「秘密兵器」の一つで、抗うつ薬を超える効果があることが研究で実証されています。抗うつ薬の多くが、その効果は気休め程度にとどまり、しかも深刻な副作用があることがわかっています。

運動によって精神的な健康が促される理由は、インスリン抵抗性を正常化し、感情を制御する幸福ホルモンや神経伝達物質の分泌(エンドルフィン、セロトニン、ドーパミン、グルタミン酸、GABA)が活発になるためです。

スウェーデンの研究チームにより、運動が ストレス や、ストレスから発症するうつを軽減させるメカニズムについても少しずつわかってきています。鍛えられた筋肉にストレス時に発生する物質であるキヌレニンを代謝する酵素が含まれることが発見されたのです。

この発見は、筋肉トレーニングを行うことで、うつを引き起こすストレス物質を排除することを示唆しています。研究チームは次の様に発表しています。

「私たちが研究当初に立てた仮説は、鍛えられた筋肉が脳に有益な物質を生成するのではないかという内容でした。しかし調査結果は逆で、鍛えられた筋肉は、身体から有害な物質を排除する酵素を生成することがわかりました。つまり、筋肉の機能は腎臓や肝臓に近いということです。」

最新の研究で、身体活動の少なさとうつの関連性が指摘されています。一日に7時間以上座っている女性は、4時間以下しか座っていない女性と比べて、うつのリスクが47%高いことがわかっています。運動を全くしない女性では、運動をする女性に比べて、うつを発症するリスクが 99 %高いとされています。

創造性が足りないなら身体を動かそう!

先述の特集記事でも触れているとおり、運動によって創造性が豊かになり、問題に対する新しい対処法を思いつくのに役立ちます。例えば、スタンフォード大学の研究チームは、ウォーキングで創造性が60%上昇することを発見しました。オフィス周りをブラブラ歩き回るだけでもよいというのです。

研究チームは次の様に発表しています。

「4つの実験で、ウォーキング中やすぐ後に創造的なアイデアが浮かぶことが示されました。ウォーキングは自由な思考の流れをもたらし、創造力を増すためにも肉体を強化するためにも簡単で確実な方法なのです。

運動が脳の成長や細胞の再生を促す

先に述べたように、脳は一生をとおして、若返りや再生する能力があるという喜ばしい研究報告があります。これは、私が医学部で教えられたことと全く反対の情報です。当時、ニューロンが死滅すると、手を施す方法はないと考えられていました。従って記憶力の衰えの進行は、避けられない老化現象と考えられてきました。それが実は幸運にも事実ではなかったのです。

Spark: The Revolutionary New Science of Exercise and the Brain」(脳を鍛えるには運動しかない)の著者で精神科医のJohn J. Ratey氏によると、運動は、認知機能を高め、認知症の発症を防ぐのに役立つことを示す確かなエビデンスがあるというのです。

特集記事の中で、運動をする人は、記憶を司る海馬領域にある灰白質の量が大きいとの研究結果が示されています。研究チームは次の様に発表しています。

「年齢、性別および脳の容積を考慮しても、一週間の運動時間と右海馬の量には密接な相関性があります。この発見は、若年および中年成人における定期的な運動と脳構造との関係性を焦点をあてています。」

また、運動をすることで老化による脳の萎縮を予防することができます。前頭皮質、側頭皮質、頭頂葉皮質の灰白質・白質を保護され、認知機能の低下につながるのです。研究チームさらに述べています。

「これらの結果は、心血管の健康が壮年期における脳細胞の温存と関係していることを示唆しています。さらに、これらの結果は、高齢者の中枢神経系の健康と認知機能の維持・強化に対する有酸素運動の役割において、強力な生物学的根拠を示唆しています。」

また、同様の発見をした科学者が他にも複数存在します。例えば、600人強の70歳被験者を対象にした観察研究では、3年間の追跡期間をとおして運動を最も多くの行った人では、脳の萎縮が最小限に抑えられたという結果が得られました。

脳の機能に運動が影響を及ぼす仕組みとは

運動が脳にもたらす効果のメカニズムの一つは、脳由来神経栄養因子(BDNF)と呼ばれるタンパク質によるものです。運動は、FNDC5タンパク質の合成を刺激し、BDNFの合成を促します。

BDNFは様々な点で若返り効果が期待できます。脳内では、既存の細胞を維持するだけでなく、脳幹細胞を活性化させて、新しいニューロンに変換して脳を成長させています。

このことを確証づける研究の一つに、Kirk Erickson医学博士の研究があります。60-80歳の被験者で、週に3回、30-45分のウォーキングを1年間継続すると海馬の大きさが2%増加しました。海馬は、脳の中で記憶を司る領域です。Erickson 氏はWebMDに次の様に語っています。

「通常この年代の人は1年に1~3% の割合で海馬が失われて行きます。海馬の大きさの変化は、脳由来神経栄養因子(BDNF)の血中濃度の変化と相関していました。」

Erickson 氏はまた、運動能力や体力のレベルが高いと前頭前皮質が大きいことを発見しました。薬を用いずに脳を健康に保つ方法の中で最も効果が期待できるのは運動であると結論づけています。脳の健康を保護、促進する仕組みが他にも2例あります。

  • プラークの形成を抑える。脳内に存在する損傷タンパク質は、運動によって無害化され、 アルツハイマー病の進行を遅らせることができます。ある動物実験では、運動量の多いマウスでは、アルツハイマー病に関連する有害なプラークやβアミロイドペプチドが少ないことがわかりました。
  • BMPを減らしノギンの分泌を促進骨形成タンパク質(BMP)が新しいニューロンの形成を遅らせるため、神経の再生が抑制されます。BMPが増えると、脳の成長が滞り、頭の回転が悪くなるのです。運動をすると、BMPの影響が抑えられます。これにより、成体の幹細胞が成長を続け機能を保つことで、頭脳を明敏に保ちます。
  • 動物実験では、回し車を与えられていたマウスではBMPが1週間で半減しました。さらに、運動はBMPの活性を阻害する作用を持つ別の脳タンパク質である、ノギンの分泌を促します。

    運動により、BMPの有害な影響を抑えるだけでなく、BMPを抑えるノギンの分泌も促されるのです。BMPとノギンによる複雑な相互作用がニューロンの新生と維持に必要な要素です。

運動は脳と筋肉の衰えを防ぐ

筋肉と脳の健康の関連性を示す例として、BDNFは筋神経系でも発現し、神経運動の劣化を防ぎます。神経運動は、筋肉の最も重要な役割です。神経運動が機能しなければ、筋肉は点火できないエンジンと同じです。神経運動が劣化していくことは加齢によって筋肉の萎縮が進行していく過程なのです。

BDNFは筋肉と 脳に密接に関わっており、この関わりこそが、脳の組織に運動が大きな効果をもたらす理由の大部分を説明づけています。BDNFは、年齢による筋肉の衰えを防ぎ若返らせる効果がありますが、脳についても同様の効果があります。これらの研究から伝わる最も重要なメッセージは、頭脳の衰えは決して避けられないことではなく、また運動は、身体のみならず脳にも良い効果をもたらす、ということです。

ダイエットや断食の持つ役割

断食と運動により、脳や筋肉の若返りと再生を促す遺伝子や成長因子が活性化することを示す証拠が見つかっています。BDNFや、筋肉制御因子のMRFなどがこのような成長因子にあたります。

これらの成長因子が信号となり、脳幹細胞は新しいニューロンに、衛星細胞は新しい筋肉細胞に変化します。このことはまた、 運動しながらの断食 で、脳、神経運動や筋繊維の生物学的な若さを維持することができる理由を説明づけています。

インターミッテントファスティングと運動を組み合わせで最大の効果を得るための方法は、私の以前の記事「最強のコンボ—高強度インターバルトレーニングとインターミッテントファスティング」を参照ください。いつ食べるのかということに加えて、何を食べるのかということも非常に重要です。

糖 は、BDNFの働きを抑制します。糖分を控えた食事と運動の組み合わせが記憶能力を守り、うつを遠ざけることができるのはこのためです。砂糖、特にフルクトースは、トレーニング後2時間以内に摂取するとヒト成長ホルモン(HGH)の生成を停止させます。HGHの生成が高強度インターバルトレーニング(HIIT)の主な効果であるにもかかわらずです。

運動でキレのある壮年期を

運動を始める時期は遅すぎることはありません。早くはじめて継続すればそれだけの効果があります。活動的な生活習慣は将来の心身の健康に役立つ投資といえます。

中でも高強度インターバルトレーニングは運動の効果を最大限に得られる方法です。効果が大きいので、時間も少なくて済みます。とはいえ、理想的な方法は、様々な運動を幅広く取り入れた、変化に富み、包括的なフィットネスプログラムを継続することです。

また、気を付けていただきたいことは、 座りっぱなしを避けて 毎日できるだけたくさん歩くようにすることです。フィットネスバンド(歩数計)を使うと便利ですよ。普段の運動にプラスして 一日に7,000から10,000歩を目標にしましょう。どちらかを減らしてはいけませんよ。科学的にも、このことだけははっきりしています。歳をとっても知能まで衰えてしまうことはないのです。

脳は生涯ずっと再生、成長する力を持っています。運動は、年月が過ぎても脳の若返りを支えることができる効果的な対策です。