消防士の命に関わる難燃剤との戦い

消防士

早分かり -

  • マサチューセッツの議員団は、住民や消防士の難燃剤への露出を著しく減少させることになる2つの法案を検討している。
  • 消防当局も支持するこれらの法案は、子供向け製品や家具の装飾品に難燃性化学薬品を使用しないことを求めている。
  • この法律により、健康面へのリスクが高いとみなされる他の難燃剤についても禁止できる権限が州の当局に与えられる。
文字サイズ:

Dr. Mercolaより

難燃剤の効果が高いのであれば、消防士達はみな難燃剤の使用を支持するはずです。ですが、難燃剤の使用に反対しているのは主に消防士の方々です。難燃材は効果がないだけでなく、非常に毒性が高いのです。

燃えさかる家屋に突入するだけでも十分に危険なのに、さらに、難燃性化学薬品が燃えているとなればなおさらです。化学薬品で難燃処理を施した製品にも火はつきます。着火すると難燃処理をしていないものに比べて、非常に毒性の高い一酸化炭素、すす、煙を放出します。

カリフォルニア州の40-50歳の女性消防士は、乳がんのリスクが全国平均より6倍高い結果が出ています。なぜカリフォルニアなのでしょう。これは、1975年に可決した、難燃性試験(CA Technical Bulletin 117)が原因です。

この法律では、カリフォルニア州で販売される家具類は、炎に12秒間当てても着火しないことが要求されています。この要件を満たすために、家具メーカーは、製品に大量の難燃剤を使用したのです。

難燃性化学薬品が燃焼する際に発生するダイオキシンおよびフランへの暴露により、消防士は男女とも、ガンの発症率が高いという結果が出ています。

マサチューセッツ州の消防士団体、難燃剤の禁止を求める

マサチューセッツの議員団は、住民や消防士の難燃剤への露出を著しく減少させることになる2つの法案を検討しています。消防当局も支持するこれらの法案は、子供向け製品や家具の装飾品に難燃性化学薬品を使用しないことを求めています。

この法律により、健康面へのリスクが高いとみなされる他の難燃剤の使用を禁止できる権限が州の当局に与えられます。その内容は、他の州で現在までに可決されている難燃剤に関する法律を超えるものとなっています。

化学薬品の健康リスクがますます明らかになっていく中、化学工業界は、化学薬品の使用を継続的させるために戦い続けています。

American Chemistry Council(米国化学工業協会)当局は、マサチューセッツ州の法案に反対する証言をしました。火災発生時に、難燃剤のおかげで避難するまでの時間的余裕ができると主張したのです。

難燃剤10種類を段階的に禁止していくという類似法案を良しとしないミネソタ州下院議員団に対する消防士団体のデモが行なわれました。

消防士団体は、難燃処理を施した家具に実際に火をつけ、避難時に難燃剤のおかげで得られる時間はたったの数秒であること、それに対し、難燃剤のせいで発生する煙の量、一酸化炭素、発ガン性物質の量が非常に多く危険であることなどを訴えました。

マサチューセッツ州消防署長Peter Ostroskey氏によると、難燃剤より安全で火が燃え広がるのを効果的に防ぐ方法はスプリンクラーの設置であると述べています。

ワシントン州、難燃剤5種を禁止に

各州でそれぞれに難燃剤に対する行動が起こっています。

ワシントン州の議員団は子供向け製品や家具での特定の難燃剤(ポリ臭化ジフェニルエーテルまたはPBDE類など)の使用を禁止しました。しかし製造業者はさらに危険性の高い難燃剤を使うようになってしまいました。

Washington Toxics Coalition(ワシントン有害物連合)は、新しく使用されるようになった難燃剤(塩素系)が室内の空気や塵を汚染していないか確認するため、ボランティアに24時間エアーサンプラーを装着してもらう実験を行いました。
新しく採用された薬品は参加者の自宅の空気中にも含まれており、さらに、古いタイプの難燃剤より空気中の浮遊量が多いことがわかりました。

幸い、下院ビル2545( Toxic-Free Kids and Families Act)は通過しました。これにより、さらに5種類の難燃剤が禁止になり、州保健局が、子供向けの製品や家具に使われている、難燃剤を禁止できるようになります。

カリフォルニア州にて難燃剤を禁止する法案可決後、母乳に含まれる化学物質の量が低下

PBDE類という難燃性化学薬品は、健康懸念のため2004年に米国全土で禁止されました。カリフォルニア州では、これに先立ち2003年に禁止されました。

California Department of Toxic Substances Control(DTSC、カリフォルニア州有害物質規制局)が実施した研究によると、2003年および2005年に実施された第1回のサンプリング期間と、2009年および2012年に実施された第2回のサンプリング期間を比較すると、母乳に含まれる化学物質の量が39%減少していることが判明しました。

有害物質規制局の環境研究所長のMyrto Petreas博士は、ニュースリリースで次のように述べています。

PBDEの濃度が例外的に高いことを最初に発見したのは15年以上も前のことで、その原因はカリフォルニア州独自の防火基準にあると仮説を立てました。段階的な廃止の前後で、母乳に含まれるPBDEの量を比較すると劇的な減少が見られました。」

PBDE類とPCBは分子構造が似ています。つまり、発ガン性、生殖機能のへの影響、胎児の脳の発達への影響などが起こる可能性があります。

PCB同様、PBDE類は環境中や体内に蓄積されます。また禁止される前に製造された外国からの輸入製品にも使われています(電化製品、布張りの家具類など)。

PBDE類への暴露が多いほど、不妊の恐れがあります。 PBDE類は、甲状腺ホルモン類と似た機能を持っているせいです。過去の研究からも、PBDE類により、TSH(甲状腺刺激ホルモン)が減ることがわかっています。

T4濃度が通常の値でTSHの量が少ないということは、甲状腺機能亢進症の兆候です。

難燃剤をすぐに禁止することで次世代を守ることができる

アメリカ人女性の母乳には、難燃剤の使用が禁止されているヨーロッパの女性と比較して2倍以上の難燃剤による化学物質が含まれています。また、子供の体内では、母親の5倍以上の濃度に達することもわかっています。

健康問題が日々の化学物質への暴露だけが直接の原因ではないにしろ、人の生涯において生物濃縮が健康に深刻な影響を与えることは言うまでもありません。
カリフォルニア大学バークレー校の研究者グループが行った、ある研究では、胎内および幼児期におけるPBDE類への暴露により、学童期の神経系(注意力、運動神経、認知能力など)の発達に遅れがみられることがわかっています。

さらに別の研究でも、妊娠中に母体が難燃剤に暴露された場合、生まれた子供は、IQが低い、多動の傾向があることなどがわかりました。

Florence Williams氏は、著書「Breasts: A Natural and Unnatural History(胸。自然で不自然な歴史)」の中で、彼女自身と娘の体内化学物質濃度を測定した時の経験を詳細に報告しています。

彼女の体内には、予測以上の濃度の難燃剤(他の化学物質と比較して)が存在することがわかりました。その原因は、布を張った家具類や電化製品であろうと考えています。

Williams氏は雑誌「Yes」に、これらの化学物質を禁止する政策ができれば、体内の、特に胸に現れる変化は目覚ましいだろうと述べています。

「せめてもの励みは、市場が変化すれば、我々の体にもすぐに反応が現れるであろうという点です。母乳中の難燃剤の濃度もかなりの速度で減少しています。政策が変われば、体も変わることができるのです。これもまた、対策の推進を促すために知っておきたい重要な情報です。」

消防士を守る― ボストンの対策

マサチューセッツ州ボストンでも、消防士を難燃剤から守るための対策がなされています。スプリンクラーを設置した建物では、難燃処理をした家具を使う必要はないという内容に消防条例を更新しました。

火災現場では、自給式呼吸器(SCBA)の装着、体に付着したすすはなるべく早く洗い流すこと、シャワーを浴びて衣類もすぐに洗濯するよう推奨しています。消防士は、有害な難燃剤からのさらなる保護を求めています。ボストン消防署副所長、マサチューセッツ州消防士コンサルタントのJay Fleming氏は、Boston Globeに次のように話しています。

「我々は坑道のカナリアではありません。責任の負担は、化学物質で巨額の富を得ている業界にあるべきです。一般市民や消防士に被害があってはなりません。

カリフォルニア州、家具の着火性試験を廃止

明るい話題としては、カリフォルニア州で難燃性試験(CA Technical Bulletin 117)が改正され、着火性試験が廃止となりました。2015年1月1日現在、改正難燃性試験TB117-2013への準拠が義務化されており、同州で販売される布張りの家具は、点火したタバコをおいて45分間燃えないという要求事項が含まれています。

この要件は、難燃剤の利用なしには満たせないものです(難燃剤の利用は法律で禁止されていない)。たとえば、化学物質の代わりに、ポリエステルのバッティングで裏打ちして燃えにくくすることも可能です。カリフォルニアでは、改正引火性基準に準拠する家具には、「TB 117-2013」と記載したタグが付いています。これらのタグを目印に、その家具が難燃剤を使っているかどうか、購入前に店で確認しましょう。

どのような難燃剤が家具に使われているでしょう

デューク大学の科学者グループは、ご自宅の家具に使われているポリウレタンフォームを検査してくれます。ポリウレタンフォームは、布張りの家具、シートクッション付きの椅子、車の座席などのほとんどに使われています。ビー玉サイズのサンプルを取って、7種類の難燃剤について検査します。こちらがその手順です。

  1. オンラインでサンプル請求 をして、サンプルID番号を取得します。
  2. サンプルを準備します。
    • 1センチの立方体(ビー玉より一回り大きい位)を切り取ります。
    • 切り取ったフォームをアルミ箔に包みます。
    • サンプルのフォームはそれぞれ、サンドイッチ用のジッパー式の袋に入れてしっかりと袋の口を閉じます。
    • ジッパー式の袋にサンプルID番号を書き取ります。
  3. 郵送しましょう。
    • 次のものは、箱か封筒かどちらかに入れましょう。
    • フォームのサンプル(サンプルID番号を袋に記載)(ステップ2)
    • 確認用のemailアドレスのコピー(ステップ1)

次の所在地へ送りましょう

Gretchen Kroeger

Box 90328 – LSRC

Duke University

Durham, NC 27708

研究所では、月に50サンプルを受け付けています。先着50に達した時点でその月の受け入れは終了です。サンプルを送付する前に、デューク大学スーパーファンドサンプル提出用webサイトで提出受け入れの枠があるか確認してください(毎月初旬が空きがあります)。

難燃剤への暴露を減らすには

難燃剤はいろいろな所に使われており、完全に排除するのは困難です。しかし、暴露を減らすためにできることはあります。Green Science Policy Instituteは次のようなコツを提案しています。

  • TB117基準を満たす布張りの家具を避ける。ラベルに、「この製品はカリフォルニア州難燃性試験(CA Technical Bulletin 117)の要件を満たしています。」と記載があれば、難燃剤が使われていると考えてよいでしょう。しかし、ラベルがなくても難燃剤が使われている家具もあります。

    綿、羊毛、ポリエステルを使った家具は、難燃処理をしたフォームより安全です。「難燃剤未使用」とl記載されている製品もあります。オーガニックウール(100%)は、天然のままで耐火性があります。
  • フォーム製の赤ちゃん製品を避ける。枕、ハイチェア、ベビーカー、その他の製品はポリウレタンフォームを使っていることが多く、難燃剤も使われています。
  • フォーム製のカーペットのパッドも避けましょう。可能であれば、フォーム製のカーペット用パッドの使用を最低限にしてください。難燃剤が使われていることが多いです。カーペットをはぐ場合は、難燃剤への暴露に注意しましょう。化学物質が他の場所に広がるのを防ぐために、作業をする部屋はドアを閉めておくなどしてください。掃除機にはへパフィルタを使いましょう。
  • PBDE類はハウスダストの中にも存在します、へパフィルタ付属の掃除機やモップ湿らせてを使いましょう。

2005年以前のポリウレタンフォームを使用した製品には特に注意しましょう。布張りの家具やマットレス、枕などはPBDE類を使用している可能性が高いです。これらの製品が自宅にある場合は、しっかり確認して、カバーが破れている個所、フォームがむき出しになっている個所があれば新しいものに取り換えましょう。化学物質への暴露のリスクがあります。家具の布地の張替は自分では行わないでください。